福岡高等裁判所宮崎支部 昭和48年(行コ)1号 判決 1979年8月29日
宮崎県都城市八幡町四街区一八号
(送達場所宮崎県都城市中原町一八街区一三号)
控訴人
福徳商事株式会社
右代表者代表取締役
馬場栄二
宮崎県都城区東町九街区二七号
被控訴人
都城税務署長
緒方正敬
右指定代理人
泉博
同
甲斐津代志
同
黒木幸敏
同
平野多久哉
同
坂元克郎
同
大田幸助
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
原判決を取り消す。
被控訴人が控訴人の昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの事業年分の法人税につき昭和四三年五月二八日付でした再更正処分を取り消す。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決。
二 被控訴人
主文同旨の判決。
第二主張
当事者双方の主張は、次につけ加えるほかは原判決事実摘示と同じであるから、ここにこれを引用する。
一 控訴人
1 被控訴人が昭和四〇年一二月二四日にした控訴人に対する青色申告書提出の承認取消処分は、右取消通知書に取消事由たる具体的事実の記載のない法定の理由附記を欠く違法無効な処分であり、したがって、青色申告書を提出できない法人として本件事業年度の所得金額を推計した本件再更正処分は違法として取消しを免れない。
2 本件再更正処分においては、控訴会社代表者個人の収入が全く無視されているが、控訴会社代表者は個人として戦時中から全国佃煮工業組合連合会の検査員の資格を取得し、その地位を利用して、全国的に食品等の物品の交換斡旋等を行ない多額の手数料収入、謝礼等を受け取ってきたもので、控訴会社設立後も、右の事業を個人として継続し、その収人が個人及びその家族の資産として形成されたものであって、これらは控訴会社の簿外の収入ないしは資産ではない。
二 被控訴人
控訴人主張の取消処分については、控訴人からこれに対する異議の申立てもなく、右取消処分がなされて二年余を経過した昭和四三年一〇月二四日熊本国税局長に対し直接審査請求をしたが、昭和四四年一〇月三〇日異議申立ての前置を経ない不適法な審査請求として却下の裁決がなされた。そして、控訴人は、右の議決に対し、出訴期間内に取消訴訟を提起しなかったから、前記取消処分は適法に確定したもので、これが取消処分の違法を主張することができないのみならず、右取消処分は本件再更正処分とは別個の処分であって、右処分に関する控訴人主張の事由を本件再更正処分の取消事由として主張することはできない。
2 前記一の2の主張は否認する。代表者個人として、その主張の物品の交換斡旋等の所得があれば、これを所得税法により個人の所得として申告すべきであるのに、その申告がなく、またその所得の内容について具体性がないのみならず、代表者個人も本件事業年度の税務調査に関し、その主張のような個人としての所得について何も申し立てていなかったことからみても、代表者個人としてそのような収入、資産があるものとは認められない。
第三証拠関係
一 控訴人
1 甲第一号証の一ないし五三、第二号証の一ないし三〇、第三、第四号証の各一、二、第五号証の一ないし四を提出。
2 当審における証人三宅千太郎の証言、控訴会社代表者尋問の結果を援用。
3 乙第五号証、第九、第一〇号証の各一、二、第一二号証の成立は認め、その余の乙号証の成立は不知。
二 被控訴人
1 乙第一号証ないし第八号証、第九、第一〇号証の各一、二、第一一号証の一ないし五、第一二号証、第一三、第一四号証の各一、二を提出。
2 原審における証人大塚勲、原審及び当審における証人美並澄人の各証言を援用。
3 甲第三、第四号証の各一、二の成立は不知、その余の甲号証の成立は認める。
理由
一 当裁判所は、次につけ加えるほか、原判決と同じ理由で控訴人の本訴請求は理由がなくこれを棄却すべきものと判断するので、ここにこれを引用する。
1 原判決書九枚目表五行目中「証人美並澄人」の下に「(原審及び当審)」を、同行中「同証言」の下に「(原審)」を、同七行目中「認められる。」の下に「当審における控訴会社代表者尋問の結果中これが認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして措信できない。」を、同一〇枚目表一〇行目中「(資産負債増減表とその明細書)」の下に「当審証人美並澄人の証言により成立の認められる乙第一三、第一四号証の各証の各一、二」を、同行中「証人美並」の下に「(原審及び当審)」を、同一一行目中「各証言」の下に「、当審における控訴会社代表者尋問の結果(ただし、措信しない部分を除く。)を、同一二枚目表一一行目中「るから、」を「、成立に争いのない甲第一号証の一ないし五三、第二号証の一ないし三〇中振出人として控訴会社の名が表示されないで、控訴会社代表者個人名外二名の氏名が表示されているけれどもこれが記載をもって、右の認定を覆えすに足る証拠とすることはできないし、また当審における控訴会社代表者尋問の結果中いずれも右認定に反する部分は措信しがたく、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。したがって」と改め、同裏一行目中「返済」の下に「年」を加える。
2 控訴人は、被控訴人がした控訴人の青色申告書提出承認の取消処分は違法無効であり、したがって控訴人を非青色申告法人としてその所得額を推計により算出した本件再更正処分は違法であると主張するところ、青色申告書提出承認取消処分につき、具体的事実を示さない理由附記の違法があるとしても、右の瑕疵は同処分の無効事由とはならず、単に取消原因となるにすぎないものと解すべく、取消原因のある行政処分は権限のある行政庁において自らこれを取り消すか、又は行政事件訴訟の判決において取り消されないかぎり、その取消しの効果を主張することはできないものであって、これを本件についてみると、控訴人は同取消処分に対し異議申立をしないで、直ちに審査請求をなし、その審査請求も却下され、出訴期間もすでに経過していることが弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、右取消処分についての違法を主張し、青色申告によらない法人としてその所得額を推計したことを理由に本件再更正処分の違法を主張することは許されない。したがって、この点に関する控訴人の主張は理由がない。
3 控訴人は、被控訴人主張のいわゆる簿外資産は控訴会社代表個人が控訴会社とは別個に個人として物品の交換斡旋の収入によるものであると主張し、当審における控訴会社代表者尋問の結果中には右の主張に沿う部分があるけれども、前掲証人美並澄人の証言に照らして措信できないし、他に控訴人主張の事実を認めるに足る証拠はない。したがって、この点に関する控訴人の主張は理由がない。
二 そうすると、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、これが取消を求める本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、行政事件訴訟法七条を適用して主文のように判決する。
(裁判長裁判官 舘忠彦 裁判官 松信尚章 裁判官 西川賢二)